ホウ素の基礎知識とホウ素含有水の処理方法
ホウ素含有水を排水する際は、水質汚濁防止法で定められた基準値を順守する必要があります。ホウ素は処理が非常に難しい元素のひとつといわれており、ホウ素を含む水が排出される可能性がある産業廃棄物処理場のようなところでは、様々な処理技術を駆使して排水処理を行っています。
この記事では、ホウ素含有水の排水処理技術の種類とそれぞれの長所と短所を解説します。
目次
3-1.減圧蒸発固化法
3-2.膜分離法
3-3.凝集沈殿法(硫酸バンド消石灰)
3-4.凝集沈殿法(READ-CX)
3-5.吸着法(READ-Bシリーズ)
3-6.その他の処理方法
3-6-1.溶媒抽出法
3-7.処理方法まとめ
ホウ素の排水処理における基本的な知識と必要性
ホウ素は単体で自然界に存在しない物質であり、ホウ酸、ホウ砂といったホウ素化合物として存在しています。私たちの生活でホウ酸が使われている例として、医薬品や殺虫剤・防腐剤があります。ホウ素の過剰摂取は植物の成長に悪影響を及ぼすだけではなく、人体にも健康障害などを引き起こす原因になることが指摘されています。ホウ素化合物は水に可溶であるものが多く、ホウ素含有排水の処理は適切に対応する必要があります。
ホウ素の水処理基準
ホウ素を含んだ水を処理する際は、水質汚濁防止法で定められた基準に則って処理する必要があります。
環境省は、ホウ素の排水基準を以下のように設定しています。
- ・海域以外の公共用水域に排水されるもの:10mg B/L
- ・海域に排出されるもの:230mg B/L
ただし、排水基準を順守することが難しいと認められた業種によっては、別途暫定基準が設けられています。
【業種ごとの基準】
- 旅館業:500mg/L
- ほうろう鉄器製造業:40mg/L
- 金属鉱業:100mg/L
- 電気めっき業:30mg/L
- 下水道:50mg/L
(出典元:排水基準を定める省令の一部を改正する省令の一部を改正する省令の概要 令和元年6月 水・大気環境局水環境課)
※飲用水用の処理が必要な場合は、水道水基準も参照する必要があります。
ホウ素が含まれている水の処理方法
ホウ素が含まれた水処理技術には、減圧蒸発固化法、膜分離法、凝集沈殿法(硫酸バンド消石灰法)、凝集沈殿法(READ-CX法)、吸着法およびこれらの組み合わせ方式があります。各処理法の特長については、以下の比較表を参照してください。
減圧蒸発固化法 |
膜分離法 |
凝集沈殿法
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凝集沈殿法
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吸着法
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技術の特長 | 減圧状態で水分を気化させ、析出物を回収する 濃度が高いほど効率良く、吸着法や膜分離法による濃縮と合わせるケースあり |
対象水をRO膜に通ずることでホウ素を含め各種元素の除去を行う | 硫酸バンドと消石灰を添加し、pHを12付近まで上げることでアルミン酸カルシウムが析出、ホウ素が吸着され除去される | 凝集剤READ-CXを添加し、pHを弱アルカリにすることで水酸化セリウムに取り込まれ汚泥として吸着除去される | 吸着剤を充填した塔に通液することで液中のホウ素が吸着除去される 吸着したホウ素は酸アルカリにより脱離 |
処理濃度 | 蒸発された水分にはホウ素は含まれないため高度処理は可能である | 膜の種類によって差はあるが、高度処理は可能である | 濃度が低くなるほど処理効率が悪くなり、排水基準付近までの処理が限界である | 硫酸バンド法に比べ効果は高いが、濃度が低くなると同様に処理効率が低下する | イオン化されたホウ素であれば完全除去も可能 |
汚泥について | 蒸発残留物が汚泥として発生する | 膜逆洗時に濃縮排水が発生する | 薬注量に応じ大量に発生する | 薬注量に応じ発生する | 汚泥は発生しないが再生時に高濃度のホウ素廃液として発生するため、別途処理が必要 |
運転管理(装置管理除く) | プラント管理が必要 | 自動運転は可能 | 薬注量確認と汚泥の処理が必要 | 薬注量確認と汚泥の処理が必要 | 吸着塔回りだけなら基本自動化が可能 酸アルカリの補充は必要 |
長所 | ・原水水質によってはホウ酸として回収し、再利用できる可能性もある | ・ホウ素含め水分子以外の成分がほぼ除去される | ・薬剤価格が安いため、高濃度域の処理において効率が良い | ・基本性能が高いため薬注量及び汚泥発生量は硫酸バンド法に比べて少なくなる ・弱アルカリ域での処理が可能 |
・環境基準まで処理が可能 ・濃度変化に強く、多少変動しても処理は可能 |
短所 | ・設備投資が大きく、また運用には莫大なエネルギーが必要となる | ・汚れた水ほど膜が早く閉塞し、洗浄頻度が増してしまう ・洗浄排水の処理を別途考えなければならない |
・処理水pHが高アルカリとなる ・大量の汚泥が発生する ・消石灰によるスケールが問題となる |
・薬剤単価が高い ・炭酸イオンなどの阻害影響を受けやすい |
・高濃度処理は再生周期が短くなる ・再生廃液の別途処理が必要 ・初期設備投資がある程度必要 |
※水質や処理条件により一概に当てはまらない場合があります。
※膜分離法は、以下のような理由から、本来排水処理には向きません。
- ・高濃度の洗浄水が発生するため、別途洗浄排水の処理を考えなければならない。
- ・膜分離法は水分子以外のほとんどの成分を除外するため、様々な成分が含まれた排水を処理するとすぐに詰まってしまう。
その他の処理方法
現在主流となっている処理方法以外にも、溶媒抽出法というホウ素処理方法もあります。
溶媒抽出法
溶媒抽出法は、ホウ素を溶解度が低い有機溶媒等に溶解させて排水し、ホウ素を除去する方法です。ただし、溶媒抽出法は工業化は難しいという現状があります。
処理方法まとめ
ホウ素は分子量が低いこともあり、処理が非常に難しい分子のひとつです。そのため、処理技術導入には非常にコストが掛かります。
主流となる処理方法に吸着剤を併用することで、処理効率が高まりコスト削減へと繋がる可能性もあります。コスト削減のためには、高濃度域と低濃度域の場合の処理方法をうまく組み合わせることがポイントとなります。
ホウ素の排水処理で吸着剤を使用するなら〈READ-B〉
吸着法は吸着剤を充填した塔に原水を通液することで液中のホウ素を吸着除去する方法です。
水処理用吸着剤READ-Bは濃度によって使う吸着剤は異なりますが、いずれも低濃度に安定して処理を行うことが可能です。
特に、メッキ工場、ガラス工場、石炭火力発電所、産業廃棄物処理場といった業界や施設においてREAD-Bは高い処理効率を発揮し、運用コスト削減につながります。
ホウ素の排水処理で凝集剤を使用するなら〈READ-CX〉
凝集沈殿法は、対象水に薬剤を加えてpH調整を行い、ホウ素を汚泥として沈殿させて処理する方法です。READ-CXは、これまでの薬剤とは異なり、少ない使用量で処理が可能となった新しい凝集剤です。
ホウ素処理でよく用いられるアルミ系薬剤の硫酸バンドと、READ-CXと比較したデータは以下の通りです。
ホウ素50mg/Lから10mg/Lまで処理する場合、従来法ですと0.9wt%程度の薬注が必要となり、またその際の汚泥発生量は36g/Lとなります。
これに対しREAD-CXは薬注量は0.4wt%程度で済み、汚泥の発生量も9g/L程度となるので薬注量を1/2に、汚泥量を1/3に減らすことができます。